東京高等裁判所 昭和54年(行コ)118号 判決
新潟県上越市中央三丁目七番三一号
控訴人
高達倉庫有限会社
右代表者代表取締役
丸山幸輔
右訴訟代理人弁護士
松井道夫
同県同市西城町三丁目二番一八号
被控訴人
高田税務署長
村瀬吉彦
右指定代理人
都築弘
右指定代理人
杉山昭吾
同
江口育夫
同
重野良二
右当事者間の昭和五四年(行コ)第一一八号法人税更正及び加算税賦課決定取消請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件控訴をいずれも棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
原判決中被控訴人に関する部分を取り消す。
被控訴人が控訴人の昭和四八年四月一日から昭和四九年三月三一日までの事業年度の法人税について昭和四九年一二月二五日付でした更正処分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
との判決
二 被控訴人
控訴棄却の判決
第二主張
当事者双方の主張は、次に付加するほかは、原判決事業摘示中関係部分と同一であるから、これを引用する。
一 控訴人
1 最高裁判所昭和四八年一〇月一八日の判決(民集二七巻九号一二一〇頁)によると、「土地収用法による補償は完全な補償をすることすなわち収用の前後を通じて被収用者の財産価値を等しくならしめるような補償をなすべきである。」と判示しているが、本件補償金を法人税法にいう益金に算入すべきものとすれば、必然的にこれに法人税が課せられ補償金の一部が税金として徴収される結果になる(ちなみに本件補償金の三五パーセントが税金である)(から、本件補償金は右判決にいう完全な補償をしたものということにはならない。したがつて右判決にそうよう処理するには本件補償金に法人税法第二二条第二項を適用すべきではない。
2 租税特別措置法第六五条の二、第三項は特別控除の適用要件として公共事業施行者から買取り申出のあつた日から六月を経過するまでに当該資産の譲渡が行われた場合と定めているが、右規定は、憲法第一四条、第二九条に照らして無意味、不合理、不当な制限であるから無効である。
二 被控訴人
1 控訴人指摘の最高裁判決は、被収用者が受ける補償が完全な補償すなわち収用の前後を通じて被収用者の財産価値を等しくならしめるような補償をすべきであることを判示しているにすぎず、このことと、右補償金を課税上どのように扱うかという問題とは全く別異の問題であつて、右補償金に対し課税をしたからといつて右判決にいう完全な補償に影響を及ぼすものではないのである。ましてや法人税法第二二条第二項を控訴人主張のごとく解さなかつたからといつて違憲であるとの批難を受けるいわれはない。
2 租税特別措置法に収用等の場合の課税の特例が設けられたのは、収用に係る譲渡益についても理論上はその全額が課税の対象となるべきであるが、公共事業の用地買収が短期間に、かつ円滑に実施されることは公共の福祉に合致するところから、税制面からもこれを促進すべく、右特例を設けることによつて右譲渡益のうち一定額までは課税の対象としない旨を規定したのであつて、控訴人主張のごとき理由によるものではもとよりなく、ましてや同法第六五条の二、第三項に規定する六月の期間も右特例が設けられた趣旨からくる当然の制約であつて、これが無意味であるとか不合理あるいは不当な制限で無効であるという控訴人の主張は理由がない。
第三証拠
原判決事実摘示に挙示されているもののほか、当審におけるあらたな証拠関係は次のとおりである。
一 控訴人
甲第二、第三号証(いずれも写)を提出。
二 被控訴人
右甲号証の原本の存在並びに成立を認める。
理由
一 当裁判所も控訴人の本訴請求はいずれも理由がないものと判断するものであるが、次に付加するほかは原判決理由に説示された該当部分(原判決一四枚目表二行目から同二一枚目裏一〇行目まで)と同一であるから、これを引用する。
1 控訴人の主張1について
控訴人が引用する最高裁判所の判例は「土地収用法における損失の補償は、………中略………完全な補償、すなわち収用の前後を通じて被収用者の財産価値を等しくならしめるような補償をなすべきである。」と判示しているにとどまり、右補償金を課税上どのように処遇するかという問題に係わるものではないから、右判例は本件に適切ではない。
2 控訴人の主張2について
租税特別措置法第六五条の二に定める収用等の所得の特別控除の趣旨は、原判決理由二4(同一八枚目裏五行目から同一九枚目表三行目まで)に説示するとおりであり、同条第三項が右特別控除を公共事業施行者が買取り申出のあった日から六月経過するまでに当該資産の譲渡が行われたことを要件としたのも、公共事業の予定する目的の早期達成のためこれに協力した資産の譲渡者に対する税負担の軽減を図ったものであるから、同条が不合理な差別を設けたことによって憲法第一四条に違反すると考える余地はなく、また憲法第二九条に反するとする余地もない。
二 それ故、控訴人の本訴請求はいずれも理由がなく、これを棄却した原判決は相当であるから本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 石川義夫 裁判官 寺澤光子 裁判官 原島克己)